「不動産担保がないと融資を断られる」。そのような経験を持つ経営者にとって、ABL(動産担保融資)は知っておく価値のある選択肢です。
在庫・機械設備・売掛金といった「動く資産(動産)」を担保に資金調達できる仕組みがABLです。不動産を持っていない製造業・小売業・卸売業の中小企業でも利用できるため、近年注目が高まっています。この記事では、ABLの仕組み・ファクタリングとの違い・向いているケースを解説します。
- ABL(動産担保融資)の仕組みと担保になる資産の種類
- ファクタリングとの法的・コスト・スピードの違い
- ABLが向いているケース・ファクタリングを選ぶべきケースの使い分け
ABLとは
ABLの定義
ABLとは「Asset Based Lending(アセット・ベースド・レンディング)」の略で、動産・流動資産を担保にした融資手法です。日本語では「動産担保融資」とも呼ばれます。
従来の銀行融資では、不動産(土地・建物)を担保とするケースが大半でした。しかし不動産を持たない中小企業は担保が用意できず、融資審査が厳しくなる傾向がありました。ABLは、在庫・機械設備・売掛金など「企業が事業活動の中で日々使っている資産」を担保として評価する点が特徴です。
政府もABLの普及を推進しており、日本政策金融公庫や一部の信用金庫・地方銀行がABL融資メニューを拡充しています。不動産担保に頼らない資金調達手段として、製造業・農業・小売業を中心に活用が広がっています。
ABLの仕組み・資金化の流れ
ABLの資金調達は次の流れで進みます。
担保となる資産を洗い出す
在庫・機械設備・売掛金など担保にできる資産を棚卸しします。帳簿上の資産残高だけでなく、実物の状態・換金性も評価対象になります。
銀行・ABL業者が資産価値を評価・担保設定
金融機関またはABL業者が現地確認・帳簿確認を通じて担保価値を査定します。担保設定は「譲渡担保」や「集合動産譲渡担保(倉庫内の在庫全体を一括して担保にする方式)」の形式で行われます。融資額は担保評価額の60〜80%程度が一般的な目安です。
融資実行
担保設定が完了すると融資が実行されます。運転資金として継続的に利用する場合、与信枠(コミットメントライン)を設定して必要に応じて借り入れる形式が多く見られます。
定期的なモニタリング・報告
ABLの特徴の一つが継続的なモニタリング義務です。在庫残高・売掛金残高を定期的に金融機関へ報告する必要があります。担保資産の価値が大幅に減少した場合、融資枠が見直されることもあります。
ABLで担保になる資産の種類
ABLで担保として活用できる主な資産は以下のとおりです。
| 資産の種類 | 主な業種 | 評価のしやすさ | 備考 |
|---|---|---|---|
| 売掛金(売掛債権) | 全業種 | ◎ しやすい | 最も一般的・ファクタリングの対象にも重なる |
| 棚卸資産(在庫) | 製造業・小売業・農業 | ○ 業種による | 腐敗・陳腐化リスクあり。食品・生鮮は評価困難 |
| 機械設備・車両 | 製造業・建設業・運送業 | △ 要査定 | 汎用性の高い機械は評価しやすい。特注品は難しい |
| 知的財産(特許・商標) | IT・製薬・技術系 | △ 限定的 | 対応する業者・金融機関が限られる |
ABLとファクタリングの違い
法的性質の違い
ABLとファクタリングは「資産を活用した資金調達」という点で似ていますが、法的性質が根本的に異なります。
- ABL:融資(借入金)。資産を担保に設定して融資を受けます。返済義務があり、貸借対照表に負債として計上されます
- ファクタリング:債権の売却(譲渡)。売掛金をファクタリング会社に売却して現金化します。返済義務がなく、負債に計上されません
この違いは財務指標に直接影響します。借入を増やしたくない場合(自己資本比率の維持・銀行融資余力の確保)は、ファクタリングの方が財務上の影響が小さくなります。
担保・対象資産の違い
ABLは在庫・機械設備を含む「動産全般」を担保にできます。一方、ファクタリングは「売掛金(売掛債権)」のみを対象に売却して資金化する手法です。
つまり、売掛金がない・少ない業種(製造業の完成品在庫が主体の企業など)では、ファクタリングよりABLの方が活用しやすいケースがあります。逆に、在庫・設備がほとんどなくサービス業で売掛金が豊富にある場合は、ファクタリングの方がシンプルです。
コスト・スピードの違い
| ABL | ファクタリング | |
|---|---|---|
| 法的性質 | 融資(借入金) | 債権売却(借入でない) |
| 対象資産 | 売掛金・在庫・機械設備など動産全般 | 売掛金(売掛債権)のみ |
| コスト | 金利1〜5%程度(年利) | 手数料2〜18%(取引ごと) |
| 資金化スピード | 審査に2〜4週間程度 | 最短即日〜翌日 |
| 返済義務 | あり(元本返済) | なし(売却のため) |
| 財務への影響 | 負債増加・自己資本比率低下 | 負債に計上されない |
| モニタリング義務 | あり(定期報告) | なし |
| 審査基準 | 自社の信用力・担保資産価値 | 売掛先の信用力(自社財務は影響しにくい) |
ファクタリング会社に勤めていた頃、ABLを検討中の経営者から相談を受ける場面が何度もありました。ABLは金利面で有利ですが、担保評価に2〜4週間かかるため、月末の支払いが迫っている状況では間に合わないケースがほとんどです。そのため、まずファクタリングで当面の資金繰りを確保し、並行してABLの審査を進めるという使い方を案内することが多くありました。
ABLが向いているケース・向かないケース
ABLが向いているケース
次の条件に当てはまる企業は、ABLを優先的に検討する価値があります。
- 製造業・農業で在庫・機械設備が豊富にある:売掛金だけでなく実物資産が多い場合、ABLで担保として活用できます
- 不動産担保を持っていない:賃貸物件で工場を運営しているなど、従来型の不動産担保融資を使えない場合に有効です
- 継続的な運転資金が必要:ABLの与信枠を設定しておけば、必要なときに随時借入できる継続融資スキームが組めます
- 銀行との長期的な取引関係を構築したい:ABLは銀行との定期的なモニタリングを通じて関係性を深める機会になります
ABLより他の手段が向いているケース
逆に、次のような状況ではファクタリングや他の手段の方が適しています。
- 資金調達が急ぎ(最短即日):ABLの審査は2〜4週間かかるため、来週までに資金が必要なケースには対応できません
- 借入を増やしたくない:ABLは融資なので負債に計上されます。財務指標を改善したい場面ではファクタリング(売却)の方が有利です
- 在庫・設備がほとんどない:サービス業・IT業など動産が少ない企業は、担保にできる資産がなくABLを利用しにくい傾向があります
- 売掛金が主な資産の場合:売掛金ならABLとファクタリングの両方が使えますが、ファクタリングは審査が柔軟・スピードが速い点で優位です



ABLの始め方・申込先
申込先の種類
ABLを取り扱う機関は主に3種類あります。
| 申込先 | 金利目安 | 審査難易度 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 銀行・信用金庫 | 年利1〜3% | 高い | コスト最安・取引実績が重要・ABL専門部署がある場合も |
| 日本政策金融公庫 | 年利1〜2.5% | 中程度 | 中小企業・農業向けのABLメニューあり。創業融資との組合せも可 |
| ノンバンク系ABL業者 | 年利3〜8% | 低め | 審査が柔軟・スピードが速い。コストは銀行より高い |
申込から資金調達までの流れ
ABLの申込から融資実行までの一般的な流れは以下のとおりです。
- 事前相談:担保にできる資産の種類・規模を相談します。担当者が対応可否を確認します
- 資産の洗い出し・申告:在庫残高一覧・設備台帳・売掛金残高表などを準備して提出します
- 担保評価・審査:金融機関が現地確認と書類審査を実施します。2〜4週間程度かかる場合が多いです
- 担保設定契約・融資実行:担保設定の契約書締結後、融資が実行されます
- 定期モニタリング:融資中は月次・四半期ごとに資産残高を報告する義務があります
なお、ABLは長期的・継続的な資金調達手段として有効ですが、「今月の給与支払いが間に合わない」といった緊急性が高い場面では審査期間が間に合わないことがあります。そのような場合は、ABLとファクタリングの並行利用を検討するのも一つの方法です。
よくある疑問
ABLは在庫が減ったら融資額はどうなりますか?
在庫が担保の場合、残高が大幅に減少すると融資枠が見直される可能性があります。担保価値が落ちれば融資額の削減や追加担保の提供を求められることがあります。これがABLのモニタリング義務が重要な理由で、資産残高の変動を把握した上で計画的に利用することが重要です。
ABLとファクタリングを同時に使えますか?
基本的には可能です。ABLで在庫・機械設備を担保に中長期の融資を受けながら、売掛金はファクタリングで即日資金化するという組み合わせを採用している企業もあります。ただし、売掛金をABLの担保にしている場合、同一の売掛金をファクタリングに使うことは二重担保になるため不可です。金融機関との契約内容を必ず確認してください。
ABLは個人事業主でも使えますか?
利用できるケースはあります。日本政策金融公庫や一部の信用金庫は個人事業主向けのABLメニューを提供しています。ただし、在庫・設備の規模が小さい個人事業主には担保として評価されにくい場合もあります。個人事業主で売掛金がある場合は、ファクタリング(個人事業主向け)の方が審査が通りやすいケースが多いです。
ABLに関するよくある質問
よく寄せられる質問と回答をまとめました。
ABLとファクタリングの最大の違いは何ですか?
ABLは動産を担保にした「融資(借入)」であり返済義務と負債計上が発生しますが、ファクタリングは売掛金の「売却」であるため負債にはなりません。資金調達のスピードではファクタリングが優れ、調達コストの低さではABLが有利な傾向があります。
中小企業でもABLを利用できますか?
利用できます。ABLは不動産担保が不足しがちな中小企業のために設計された融資手法で、日本政策金融公庫や信用金庫などが積極的に取り扱っています。在庫・機械設備・売掛金など評価可能な動産があれば、企業規模に関係なく申込みが可能です。
ABLではどのような資産を担保にできますか?
主に売掛金・在庫(原材料・商品・製品)・機械設備の3種類が担保として利用されています。業種によっては農産物や家畜なども対象になるケースがあり、金融機関によって担保として受け入れ可能な資産の範囲が異なるため、事前に確認することが重要です。
まとめ
- ABL(動産担保融資)とは、在庫・機械設備・売掛金などの動産を担保に融資を受ける手法。不動産担保なしで資金調達できる点が特徴です
- ファクタリングとの最大の違いは「融資(借入)か売却か」。ABLは返済義務があり負債計上されますが、ファクタリングは売却のため負債になりません
- ABLが向いているのは、製造業で在庫・設備が豊富・不動産担保がない・継続的な運転資金が必要なケースです
- 急ぎの資金調達・借入を増やしたくない・在庫がない業種では、ファクタリングの方が適している場合が多いです
ABLとファクタリングはどちらも「資産を活用した資金調達」ですが、目的・スピード・財務への影響が異なります。自社の状況に合わせて適切な手段を選ぶことが、持続的な資金繰りの改善につながります。
ABLの活用を検討している場合は、まずメインバンクや日本政策金融公庫の窓口に相談してみましょう。急ぎの資金需要がある場合は、ファクタリングで当面の資金を確保しながらABLの審査を並行して進める方法もあります。どちらか一方に決める必要はなく、状況に応じて組み合わせることで資金調達の選択肢が広がります。




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